Case #094: 破折について(2)複雑破折の病態 |日野どうぶつ病院|1

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Case #094: 破折について(2)複雑破折の病態

複雑破折の病態について

破折には露髄(神経が見えている)複雑破折と、露髄していない(神経が見えていいない)単純破折があることを説明しました。今回は、複雑破折の歯はどのように病的な状態になっているのかについて説明します。

(1)複雑破折の病態

破折した部分には、一部のエナメル質と象牙質、そして歯髄(神経と血管など)が見えています。神経があらわになっていますから、疼痛(とうつう:がまんできない強い痛み)があります。人の重い(歯髄まで到達している)虫歯と同じです。犬猫は、口の痛みについては相当我慢しますので、飼い主さんも気付きにくいです。ペロペロ舐めることが増えたとか、物を咥えても落とすとか、折れている側では食べないとか、折れている側の頭や顔や下顎を撫でられるのを嫌がるとか曖昧な症状が見られることがあります。

口腔内細菌が見えている歯髄に感染します。
大きな奥歯(この写真では、右上顎第4前臼歯:108)の先っちょあたりにある赤いところが、歯髄(神経)です。

当初、歯髄の感染は見えている部分だけですが、徐々にそれは歯髄全体に広がってゆきます。感染が歯髄全体に及び、最終的には失活します。抗生剤を投与しても効き目はありません。ひとたび失活した歯髄は、原則どのような治療をしても元に戻ることはありません。(ただし、折れて間もない、感染があまり広がっていない状態であれば、直接歯髄覆髄法によって治療が可能です。)歯髄が失活すると象牙質を作っている象牙芽細胞も死に、それ以降、象牙質が形成されることはありません。感染した歯髄から象牙細管に細菌が侵入し、徐々に象牙質にも感染が広がっていきます。さらに、歯髄から側枝やアピカルデルタの脈管系を通じて、歯根の外に細菌や細菌が作る毒素が体内に広がってゆきます。歯根の周囲に感染病巣ができ、内歯瘻や外歯瘻(例えば頬が腫れ上がったり、そこから血液のような膿が出てくる:前ページのコーギーちゃんの写真参照)を形成したりします。破折歯の歯根膜のほとんどは健全ですから、歯周病のように抜け落ちることはなく(といっても歯周病でも数ヶ月~年単位の経過ですので、安易に考えてはいけません)、根本的な治療をしなければ、いつまでも、下手をすると生涯にわたってこの状態は続きます。歯の中の感染源を取り除くことが根本的治療となり、治療には二つの選択肢があります。一つは抜歯、もう一つは根管治療です。

次回は、診断について説明します。

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