Case #053: インクラインプレーンにより下顎犬歯を頰側に傾斜移動した症例 |日野どうぶつ病院|1

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Case #053: インクラインプレーンにより下顎犬歯を頰側に傾斜移動した症例

下顎犬歯がほぼ垂直に向いていて、口蓋に触れていたり、場合によっては口蓋に穴が空いてくしゃみが出るなどの痛みや生活の質に影響が及ぶことがあります。知人から相談を受けたり、近々来院される飼い主さんのために、少し古い症例ですが引っ張ってきてアップしておこうと思います。

8年ほども前の症例になります。

ミニチュアシュナウザー、約9ヶ月齢の雄です。

 右下犬歯がやや真上を向いているのがわかります。

左下犬歯、乳歯がまだ残っていますが、萌出方向は正常です。

右下犬歯(404)、奥まった位置にあるがわかりますね。 このまま伸びてゆくと口蓋を損傷する恐れがあります。

頬側に傾けてあげる矯正治療をすることになりました。

全身麻酔下でのチェックでは、やはり口蓋にくぼみがあります。少し右側の方が第3切歯と犬歯との間が狭いですね。乳歯が移動を邪魔しているのでしょう。

レントゲンはこんな感じです。下顎の乳犬歯抜歯前です。

まだ成長する可能性があるので、インクラインプレーンは中央で左右に分けてあります。

また、上顎犬歯は尾側に移動してもらいたいので、上顎犬歯(104)もインクラインプレーンには固定していません。404は、404がより頰側に移動し、右上顎犬歯を尾側に移動するためにレジンを持って長く、少し太めにしています。

3週間ほどで、右側のレジンが取れてしまったようでした。おそらく104と固定していないので固定力が低かったのでしょう。 本来ならしっかり移動できたことを確認し、さらに1ヶ月ほど逆戻りしないようにリテンション期間を設けるのですが、ある程度移動していたので、一旦外すことになりました。

歯を折ったりしないように、スケーラーを使ったりしてレジンを取り除きますが、これがまた大変手間と時間がかかります。 

 患歯404がかなり外側に向いているのがわかります。

もう少し移動できればよかったですが、軟部組織に当たっていなく、咬頭が見られるので、良いのではないでしょうか。

左はこんな感じです。 

この治療には、インクラインプレーンの装着と除去のために、最低でも2回の全身麻酔が必要です。

複数回の麻酔が嫌な場合は、抜歯をするのがもう一つの選択肢。合併症として下顎骨折への注意が必要です。

矯正治療は時間がかかりますので、早く結果を出してあげたい場合は、生活歯髄切断法という歯内治療がありますが、成功したかどうかの経過観察にはレントゲン検査が必要で、全身麻酔を3, 6, 12, 18ヶ月後ぐらいにチェックしていきます。歯髄を覆う素材により成功率に違いがあるという報告があります。水酸化カルシウムの場合は56%、MTAだと92%とのことでした。

以上です。

 
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