Case #085: 超重度の歯周病のワンチャン、17歳、ミニダックス |日野どうぶつ病院|1

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Case #085: 超重度の歯周病のワンチャン、17歳、ミニダックス

 

なんとか月に一つはアップしなければと思いつつ、今月もあと1週間ほどとなりました。

今までで最も大変だと感じたワンチャンです。通常この年齢では、手術をするということは考えないと思います。この年齢ですと、基礎疾患が二つ三つあるかもしれません。超高齢であることが、手術に直接影響を与えるわけではないといっても、やはり躊躇する年齢です。手術がうまく行っても、もしかしたら、術後腎不全になるかもしれないし、全く別の原因で1ヶ月後に寿命が来るのかもしれない。しかし、その短いかもしれない残りの時間を、少しでも苦痛を少なく送ってもらいたいという、飼い主さんの方の並々ならない思いをお聞きしまして、手術をすることになりました。

10月初旬に見えた時の状態ですが、すごく暴れて、とても口の周りを触らせてもらえませんでした。仕方ないので、保定はせず、写真撮影でわかる範囲だけ観察します。

血液検査の主要項目だけまとめてみました。 8月にBUNが60まで上がっており、腎不全になっていると思われました。

当院で10月初旬にチェックした時には37です。一時的なものだったのか・・・?かかりつけけでほぼ毎日皮下点滴を受けていたとのことで、そのおかげなのか・・・?WBCは大変高い値を示していました。

 さて、オペ当日、WBCは6万、HCTはなんと25%に下がっていました。アルブミンも低いです。そして、CRPは11.6。今回は、年齢と8月のBUN60というのが気になり、麻酔専門医の先生に麻酔疼痛管理をお願いしてたので、色々とアドバイスをいただき、いくつか追加検査をし、さらに、術後に輸血をすることとなり、知人にお願いしたりで、イレギュラーなことがいくつかあり、少し雲行きが怪しくなってきました。当初の計画は、歯石除去だけを行うということにしました。

麻酔をかけ、挿管し、歯石を取り始めましたが、

なんと下顎の切歯骨と犬歯の間で骨折を起こしていました。最近フードをくわえてあげられなくなったと言っていました。

 右側の歯石除去と動揺の大きな歯を鉗子で抜歯し左側へ。左上顎犬歯から第3前臼歯までが一塊で動く状態でした。歯肉を切開、剥離し、それらを抜歯。鼻腔内が見えます。中には、白っぽいチーズ用のプラーク(?)の塊が・・・。出来る限り除去しました。エイヒで引っ掻き出します。しかし、その量が半端ではありません。部分的に上顎骨口蓋突起はなくなり、硬口蓋がフワフワしているだけでなく、鼻腔内の構造はありません。エイヒを突っ込むと反対側の上顎骨にあたります。以前これに近い状態のワンチャンはいましたが、それよりも重度です。いや、ほんとに大変な状態でした。

 当然中途半端な状態の歯は多いですが、可及的に歯石除去をし、根面を清掃し、手術を終えました。術後の血液検査では2%ほどHCTは下がっていました。追っかけで輸血をしました。

翌日、柔らかい缶(犬消化器サポート缶)を与えたところ、ちゃんと口でくわえて、食べてくれたので、退院としました。その後、1週間皮下点滴に通ってもらい、血液検査も実施し、経過を見て行きましたら、QOLの回復とともに、血液の方も大きく変化してきました。主要項目の結果は以下の通りです。

白血球とCRPの顕著な低下が見られました。 貧血が腎性のものかどうかがきになるところでしたが、どうやらそうではなさそうです。私の考えでは、術前は口の痛みや違和感で食事を十分に摂取することができず、いわば飢餓状態になっていたのではないだろうか。アルブミンの上昇、赤血球も増えるとともに、BUNも増えています。このBUNがこの子の本来の数値なのでしょう。手術当日、BUN 31というのは栄養不足で下がっていたのでしょう。この数値を信じていたら、大変なことになっていたかもしれません。CRPは術後すごい勢いで下がっています。これは鼻腔内のプラークを除去したことも大きな要因でしょう。これは歯周病というより、歯周症といった方が良いかも・・・。口の中だけにとどまらない病態です。

日に日に元気になり、食欲も回復して自分で食べられる姿に飼い主さんは大変喜んでみえました。無事手術も終わり、本来の生活を取り戻すことができ、本当によかったです。元気で、長生きしてください。

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