Case #031: 重度歯周病のミニダックス, 口鼻腔瘻、ONF
2018.11.09 歯科
さて、本症例は9月に知り合いの病院さんからご紹介いただきました。左上顎の犬歯が抜けたあとに穴が空いている(口鼻腔瘻:ONF)ということと、その他にもかなりの量の歯石がついており・・・。これは手強いぞという感じです。10月某日に予約を入れて行かれました。
口鼻腔瘻は、こうして炎症がおさまっているのを見るとなんでもなく見えますが、今まさに炎症が起きており肉芽が盛り上がっていて正常ではない組織を縫合する際、本当にくっついてくれるのかなと、私も心配になることがあります。また実際に、あとで見たら穴が空いていることもあります。簡単なようで簡単ではないです。
写真上が左下顎、下が左上顎です。上顎犬歯のあったところに穴が空いてるのが分かりますか?
こちらは右側です。上が上顎、下が下顎です。茶色っぽい歯石と、赤く腫れた歯肉の間に、灰色っぽいトロッとした感じのものが見えますね。かなり熟成したプラークと思われます。上顎犬歯の歯肉のラインは、大きく背側に退縮しているので、こちらも歯はあるものの口鼻腔瘻になっているのでは?と思われます。
今回はまず左の口鼻腔瘻の治療が一番の目的でしたので、そちらの治療から始めます。
プロービングとレントゲン検査から、多くの歯が重度の歯周病に罹患していることが分かりました。
通常のレントゲンと同様、向かって右側が患者の左側となります。右上の黒いぽっかりあいたところがあり、これが口鼻瘻です。その手前にある歯のまわりは黒っぽくなっていますが、これはこの歯の根っこのまわりの骨がなくなっているということです。この歯もおいておくメリットはありませんので抜歯となります。
今、指で示しているところは、歯肉を切開し開いており、骨が見えています。 第三切歯の抜歯窩とその尾側にONFが見えます。ONFの創面は切除し、新鮮創にします。そして、剥がした歯肉側にくっつている骨膜を切開し、
創面にテンションがかからないようにして、モノフィラメントの吸収糸で単純結紮縫合にて閉創します。
下顎後臼歯のあたりも、重度歯周病になっていた為、抜歯しました。
大きな歯が第1後臼歯、その向かって左側が第4前臼歯です。下顎の垂直、水平骨吸収、第4前臼歯遠心根の炎症性の根吸収、第1後臼歯近心遠心根根尖周囲の骨透過性の亢進が見られ、辺縁性歯内病変が起きていると考えられます。その次にあるべき歯はすでに無くなっており、その次(一番右)に見える小さな歯が第3後臼歯ですが、この歯も先っちょでくっついている程度ですので、抜去すべきでしょう。
同様に歯肉は縫合し閉創します。
右側に移って、下顎犬歯の抜歯に取りかかります。
歯冠が大きな歯を抜歯する際はその存在が抜歯を邪魔することがあります。歯冠切断し、視野と作業域を確保します。
さらに根尖側で切断し除去します。急がば回れ、ですね。
結果的に抜歯はできましたが、残念ながら少し顎骨に亀裂が入ってしまいました。
ここにはConsilという活性ガラスという成分を充填し、骨を誘導します。
あくまで誘導する元を詰めるだけですが、この患者はまだ切歯が残っているので、顎骨に負荷がかかる可能性があります。いくら骨誘導剤を詰めたところで、骨にメカニカルストレスがかからなければ骨はでてきません。
白くモヤモヤした部分が、Consilが入ったところです。
そして最後に難関の右上顎犬歯の抜歯です。
歯肉粘膜フラップを作成し、歯槽骨の除去をして、
抜歯したところ、歯根の口蓋側の表面に青カビ状のものが見られました。
抜歯したところは、やはり完全に骨は欠損し、ぽっかりと鼻腔に交通していました。(口鼻腔瘻)
臼歯群も抜歯しまして、1つの大きなフラップを作成し、最後は常法通り閉創しました。
ーーーーーーーーーーーーー
約1週後に来院してくださり、口腔内をチェックしました。
今回抜歯した犬歯部。綺麗に閉じています。
口鼻腔瘻だった部分も、バッチリですね。
うまく行って何よりです。
飼主さんによると、術後4日目ごろからとても元気になってきて、今ではオペ前より元気だとのことでした。しっかりと全口腔において歯科処置をすることが、QOL向上に貢献できると確信しています。