Case #036: 会陰ヘルニアのシェルティー |日野どうぶつ病院|1

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Case #036: 会陰ヘルニアのシェルティー

こちらの症例も友人の動物病院にて行ってきました。

未去勢雄のシェルティー、8−9歳ぐらいだったかと。

レントゲンでは、会陰部に球状に溜まった便がありました。大体グレープフルーツ大です。

少し前にもその病院でミニダックスの会陰ヘルニアの症例のオペをしまして、経過が良いということで、より難易度の高そうなシェルティーもオペをしようという事になりました。

会陰ヘルニアのオペはパテラのオペ同様に再手術が多いオペです。要因は、はっきりした病態生理が分かっていないという事もあるでしょう。きっかけは様々ですが、決まって未去勢の雄に見られるものです。沢山の人、大学などから、様々な手術法が提案されていますが、私も以前、内科学アカデミーにて手術法の提案をしました。人用のヘルニアメッシュを用いた独自の方法です。人工材料を用いるという点で感染に弱いということが大きなデメリットです。他の手法で内閉鎖筋など本来あるべき場所から筋肉を移動してヘルニア孔をうめるという手法は、正直賛成できませんが、他の方法を批判するつもりはありません。それぞれの手法は、メリットデメリットがあり、術者が責任を持ってオペをされるわけですので。私の手法も1例うまく行かなくて、大学にて別の方法で再オペをうけているものもあります。

術前の状態から術中、術後、経過観察までの外観の写真を並べて行きますね。

術前です。

まず、この便を全て出すところからですが、それだけでかなり難儀しました。その病院にあった肛門鏡という器具が非常に有用でした。1つポイントを挙げるとしたら、指を入れて搔き出す事は、わたしはしません。

去勢手術をしている間に、結腸にとどまっていた便もまた出てきてたまってしまいました。

肛門が、右側に寄っているのが分かりますね。会陰ヘルニアになると、必ずどちらかに肛門が変位してしまいます。ついでにいうと、より尾側にも変位しています。

 術中写真ですが、これは正直どのタイミングか分りません。

一度、会陰部を切開したものの、新たに出てきた便が腹腔側へ引っ込まなかった為、もう一度体位を変えて腹部切開をし、結腸を腹壁に固定し、中に引っ張り、便を中に移動しやすくしました。

そして、この飛び出たところを、メッシュで360度くるみ、土管のような状態をつくってあげます。このように腫れているとそれはそれで大変な作業でしたが、なんとか二人の獣医師の力でくるみました。そして、まず肛門括約筋にそのメッシュを数カ所で固定をします。そして、そのメッシュを頭側にできるだけ引っ張って、直腸や肛門の左右の変位だけでなく、尾側への変位も矯正してあげるのです。太った動物では、非常に深く、狭いところでの作業となり困難を極めます。感染が成立しないように何度も何度も術野を洗いながら、また、巾着縫合をした肛門から、どうしても便があふれてきてしまうので、その部分も綺麗にしながら、とにかくいつ終わるのか分らないような雰囲気の中、途方もないような事をしている気になってしまうのですが、丁寧にメッシュの土管を形成し、骨盤腔に入ってきた便が、一直線に「肛門の中心」に向かってゆく道を造ってあげるのです。

排便という動作は、嚥下などと同じで、全て一連の意志の及ばない動作です。ひとたび始まったら、そこから便が無くならない限り、いつまでも便をだそう出そうと、勝手に腸が動いてしまいます。一方、便が肛門中心からずれてしまうと、絶対に肛門は開いてくれません。弁が肛門の中心に来て初めて、肛門はゆっくりと開いて排便が進められるのです。

うまく整復をし、最後に余計な皮膚を取り除き、少しでもスペースができないように努力します。

肛門が中心に来ているでしょう。

感染がコントロールされれば、おそらく自力排便ができるようになると思われます。

 これは抜糸をしたときなので、約2週ほど経ったときの状態です。

肛門は真ん中にありますよね。もちろんそればかりではないですが、うまく行きそうな1つのサインです。何年ぶりかで、自力で排便ができているとの事でした。

このまま良い状態が続く事を願っています。

会陰ヘルニアにかんする個人的な考察

*内科的治療について

私の経験では、会陰ヘルニアになってしまうまでに、必ずといっていいほど見られる症状があります。排便時間が長くなるということです。糞便軸(私の造語)が肛門中心から少しずれてしまう事で、排便が始まっているのに肛門が開かない為にいつまでたってもうんちが出ないので、ずっとしゃがんでいる状態です。何かの拍子に糞便軸が肛門中心に移動する事で体外に糞便が排泄されるのですが、そうでなければ、会陰部の組織をどんどん破壊してしまうのです。その時に痛みが生ずるので、さらに肛門は硬く閉まってしまいます。その時点で、飛び出てきている部分を押し込んで、手でぎゅーっとじっくりと押し込んであげる事で糞便軸が肛門中心に移動し、排便をさせる生活を続けてあげることで、治ってくれる事があります。鎮痛剤を投与するのも1つです。また、食事を複数回に分けて、できるだけたくさん散歩に行って、便が溜まりすぎないように、少量ずつ出るように促してあげるのもよいです。便が小さくなる食事を与えるのもいいかもしれません。(低残渣食と呼ばれるフード)既に痛みが強い場合は、噛みついてくる事もあるので注意が必要です。そういう場合は、エリザベスカラーをして、排便の介助をする方が怪我をしないようにしましょう。

*外科的治療について

外科手術であっても必ず治る保証はありません。しかし、便が出ない、また非常に苦痛が生じているときは、手術を受ける事も検討すべきです。どの方法が絶対という事はありません。ポイントは、何か(体内の組織の一部:筋肉や膜、人工のもの:メッシュやヘルニアプレート)を上手に設置してあげる事です。その何かの容積が小さい場合、つまり糞便軸を肛門中心までもっていけなければ、同じ部位にヘルニアは再発してしまうでしょう。容積が大きいと、反対側に圧迫してしまい、結果反対側に糞便軸がずれる事で反対側にヘルニアができる事があります。生体のものでヘルニア孔をふさぐ場合、それが丁度の容積なのか足りないのか、もしくは多すぎるということもあります。しかし、術中にこれらのことを判断する事は難しいかもしれません。

 

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