Case #001: 猫 吸収病巣 |日野どうぶつ病院|1

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Case #001: 猫 吸収病巣

​​(アップが増えてきたので、徐々に1症例ごとにまとめています。H30.3.26)

 今日も猫ちゃんの歯科治療が入りました。

オペ前の診察では、明らかに吸収病巣がありそうでした。臨床症状は、顔を触られるのを嫌がるということでした。

写真は今日のオペ中のものですが、上顎第3前臼歯と、下顎第3前臼歯が疑わしいです。

猫の吸収病巣は非常によくある病気です。赤く晴れ上がった歯肉の部分を触ると、麻酔下だというのに、顎がガクガクと反射的に動きました。かなり痛みを伴っていると想像できます。

 右下顎の口腔内レントゲンです。

上の写真:3本歯がありますが、左の2本(第4前臼歯:408と第1後臼歯409)と右の1本(第3前臼歯:407)に大きな違いがあるのが分かります。平行法で撮影。

下の写真:左から3番目が407です。2等分面法で撮影。

407は、歯冠の形態、構造に異常が認めます。歯根も歯槽骨、歯根膜、歯根の構造が不明瞭です。これは吸収病巣のtype2に分類されます。

吸収病巣に限った事ではありませんが、かならずレントゲン検査を行います。レントゲン所見が治療に直結する事が非常に多いのです。

 細かい事のようですが、まず赤く腫れ上がって歯を被っている組織はできる限りとりのぞきます。口腔内検査の際にチャタリングを起こすのは、この部分を触る事によっておこるからです。

 吸収病巣type2については、成書によると歯冠切断という治療を行う事になっています。歯冠切断とは、歯頸部を切削し、歯冠部分をとりのぞく治療です。

といっても単にバーで切断するだけでは、断面や骨が露出したままになり、治癒に時間がかかるので、歯肉粘膜フラップを作成し、切断後歯肉を縫合し閉創します。

歯と骨はダイヤモンドバーで丁寧に削り、表面に突起がでないように仕上げます。

最後に縫合をします。

歯肉側にくっついている骨膜を切開し、歯肉が緊張せず骨を被えるようにします。

歯肉の縫合は、大抵Monocryl 4-0で単純結紮をします。吸収される(水で分解される)糸なので、術後に再度麻酔をかけて抜糸をする必要はありません。

抜歯ではなく歯冠切断で済むメリットは、脱臼するために骨を切削する必要がありませんから、そのぶん低侵襲で麻酔時間も短く済みます。この猫は4本吸収病巣をもっていましたが、たいてい複数本見られるので、短時間で済むメリットは大きいです。

抜歯や歯冠切断をすることになると、飼主さんから「食べられるのですか?」とよく聞かれます。

犬や猫という食肉動物にとって、一番大切な歯は裂肉歯(上顎第4前臼歯と下顎第1後臼歯)です。もちろん他の歯にも大事な歯はありますが、ペットとしての犬猫においては、裂肉歯が最も重要です。裂肉歯の上か下1本がなくなれば、そちら側では食べ物を噛み切る事はできなくなります。ですが、咬まなくてもいい大きさの粒を与えて頂ければ、生命には影響はありません。ウェットフードを与えたり、今までと同じドライを与えたい場合は、ハサミなどで小さく切ってあげれば良いです。

 
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