Case #011: 犬 上顎第4前臼歯208の破折 |日野どうぶつ病院|1

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Case #011: 犬 上顎第4前臼歯208の破折

6歳、13kgの雑種犬の上顎第4前臼歯の破折の症例です。

典型的に、硬すぎるガムを咬んでいておれたようです。

検査前の状態です。画像上側が下顎左側、画像下側が上顎左側です。

分りにくいかもしれませんが、上顎の奥の方にある歯の口頭に赤いところがあります。

神経が見えている(露髄している)状態です。 

血液がのっている部分がちょうど破折部位を示しています。 

 遠心根の根長:18mm

近心頬側根の根長:17mm

近心口蓋根の根長:7mm

上顎第4前臼歯のトランスコロナールアプローチにおいては、通常3つの根長はほぼ同じ長さですので、近心口蓋根の根長が7mmということはまずありません。

 レントゲンでは、近心口蓋根の根管にファイルが入っていません。

6歳という年齢にしては根管が細すぎる感じはありますが、#6のファイルで通らないということは歯内治療はできないと判断しました。トライセクションという特殊な方法により近心口蓋根のみ除去する方法もありますが、飼主さんと検討した結果、抜歯を選択することにしました。

歯肉を剥がします。プロービングによりポケット深さは3mmありましたが、破折は歯冠のみということがこの時点ではっきりしました。 

歯槽骨を切削し、歯冠部分を分割しました。

近心頬側根と遠心根を除去し、近心口蓋根の断面が見えたところでファイルが根管にどれくらい入るか、改めてチェックしましたが、やはり十分に入っていかないことが 分りました。やはり、方向転換して良かったです。

レントゲンにて、残根がないか念のためにチェックをしました。綺麗に抜けています。

 4−0Monocrylで、単純結紮縫合により閉創し終了です。

この口で、他にちょっとおかしいと思うことはありませんか?

犬歯の咬頭がやや平らになっていますね。実は切歯も平らになっていました。これは咬耗といって、摩擦の大きすぎるものをしょっちゅう咬んでいることで歯の先端が削れている状態です。 

臨床的にも、レントゲン的にも露髄をしていないことは確認されました。

このワンちゃんの歯は、比較的綺麗だと思いますが、それは硬いものをしょっちゅう咬んでいたからに他ありません。しかし、時としてこのように破折がおき、結果としてペットの犬において最も大切な裂肉歯(上顎第4前臼歯と下顎第1後臼歯)を1本失うことになってしまいました。

飼主さんはとても後悔されており、もうガムはやりませんとおっしゃっていましたが、そうなると今度は汚れがつきやすくなってしまいます。

ではどうしたらよいかというと、与えるガムをしっかりと選んであげるということです。基準としては、そのガムが手で曲げて折れるくらいの柔らかさがあれば良いということです。

ショップに売られている、”歯に良い”などと書かれているものを、鵜呑みにせず本当に歯に良いのかをしっかりと見極める必要もありますね。

 
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