Case #037: 上顎第4前臼歯(108)破折のラブラドール |日野どうぶつ病院|1

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Case #037: 上顎第4前臼歯(108)破折のラブラドール

 

今日の患者は、2歳半ぐらい去勢済雄のラブラドールです。他院さんからのご紹介です。

108の破折ですが、電話でお聞きしたときは、山へ行った時にクルミをよく咬んでいるとの事でしたが、今日お聞きしたら牛のひずめを与えていたとの事です。ぜったいにいけません。お店で、「歯によい」とか「歯をじょうぶに」とか書かれている商品こそ、ご注意ください。

破折歯の抜歯は簡単ではありません。特に多いのが上顎第4前臼歯の破折ですが、ミニダックスとか小型犬なら削る骨も少ないですが、大型犬になるとかなり削る必要があります。

 主咬頭が無くなっていますが、縦にも亀裂が入っているように見えます。

 こんなところにも亀裂があります。大きく3つに分かれており、明らかに根に向かっていますので、これを修復保存する事はできません。しかし、一応全ての裂肉歯はしっかり調べておきます。万が一他の裂肉歯も破折や歯周病に罹患している可能性もあります。

 ポケットの深さは全て正常で、レントゲン的にも異常はありませんでした。

108のみを抜歯する事にします。

局所麻酔の投与をし、歯肉の付着部をメスで切開、縦にも切開しフラップを作成します。

近心頬側根に向かって破折ラインが伸びていました。

 頬側の歯槽骨を丁寧に切削してゆき、歯冠を切断し、単根歯のようにします。

 まず遠心根を脱臼させ、次に近心根の頬側根と口蓋根の間の歯冠を切断し、頬側根から同様により歯槽骨を削り脱臼。次に口蓋根も。

 骨棘を削って平らにし、歯肉に付着した骨膜を切開して、テンションがない状態にしてモノフィラメント吸収糸にて単純結紮縫合にて閉創しました。

 綺麗に抜歯できています。歯肉切開〜抜歯〜縫合まで、30分ほどかかりました。

その後、他の歯も検査をしておいて欲しいとの事だったので、プロービングデプスを測定し、レントゲン検査も行い異常がないかスクリーニングしました。

今回のポイントですが、まだ若いということもあり、できたら抜髄根充で保存の可能性を残したかったところです。破折歯の治療には、抜髄根充による保存か、抜歯という選択肢があります。抜髄根充に適した折れ方というのがありますので、どのような破折歯も保存できるわけではないです。また、抜髄根充は一度の治療で保存を約束できるわけではなく、経過観察をする必要があり、それは麻酔下でのレントゲン検査となります。今回はほぼ選択の余地はありませんでしたが、仮に治療として選択する事ができたとしても、実は片道90km近く遠方からおこしになられているので、「経過観察は無理かな、一度で終わらせたいな」という事であれば、抜歯の選択が最適です。また、安易に患肢の抜歯に取りかからずに、特に他の裂肉歯に異常がないかをしっかりと見極めてから治療を行う必要もあります。飼主さんは抜糸をしにこなければならないかと尋ねられましたが、溶けてなくなる糸なので、その必要はなく、スマホで写真をって経過を見せて頂く事になっています。遠方からお疲れさまでした。

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お正月に経過の写真をメールにそえて頂きました。

患部ははっきりと写ってはいませんでしたが、以前は写真を撮ろうといてもすぐ口を閉じようとしていたが、今回はおとなしくじっとしていたとの事でした。また、そうした口の痛みが取れた事だけでなく、全身の運動機能も向上したように思えるとの事でした。

これはまんざら飼主さんの欲目ではないと思っています。まさに歯科治療の真骨頂です。ひと言でいえば元気になるということになりますが、しっかりした歯科治療をするとこういう変化はよくあるのです。

良くなって何よりでした!お元気で!

 
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