Case #060: 慢性潰瘍性歯周口内炎(CUPS)のイタリアングレーハウンド |日野どうぶつ病院|1

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Case #060: 慢性潰瘍性歯周口内炎(CUPS)のイタリアングレーハウンド

先週末、130kmほど遠方より来院された、イタリアングレーハウンド犬、12歳の歯科症例を紹介します。主訴は、右眼窩下膿瘍があるとのことでした。

来院に先立って送っていただいた写真では、このような感じです。

多量の歯石が付着して、特に犬歯に接する頬側粘膜が赤いのが疑われます。重い歯周病だろうとは思いましたが・・・。

来院時の診察では、口の中を見せてはくれますが、とても嫌がります。イタリアングレーハウンドは大変性格が温厚な犬が多いと認識しており、もし他の犬種だったら、相当怒ったりキャンキャン痛くて吠えるくらいじゃないかなと想像しました。

いざ麻酔をかけて、口の中を見ますと・・・

 病状はかなり重そうです・・・。

わかりますか?歯石の表面に付着した、非常に粘度のたかそうなプラーク・・・。これはやばいです。

ただくっついているだけで、指でつまんでも容易に抜けそうな歯も何本かあります。

一般的に、右眼窩下膿瘍は、主に右上顎尾側の臼歯の破折や歯周病による根尖膿瘍が原因していることが多いのですが、

歯石を取ってみても、破折はありません。頬側の歯槽骨はかなり消えていますが・・・。 

 レントゲンでも

 この通り、明らかな根尖周囲の骨透過性の亢進は認めません。

少し場所と角度を変えて撮ってみても、

こんな感じです。

ただ、この右眼窩下の腫脹だけでなく、口腔のかなりの部分に潰瘍が形成されて、相当な痛みを持っているであろうこともこのワンちゃんのQOLを悪化していると思われます。

 すべての歯のプロービングデプスの測定と口腔内レントゲンを行い、これは重度の歯周病というより、慢性潰瘍性歯周口内炎(CUPS)と診断し、ほとんどの歯を抜くことにしました。

 口が硬く6-7割くらいしか開きません。以前経験したことがある非常に重度のCUPSの症例は3割くらいしか口が開かなかったものもいます。

反対側は、

 やはり相当数抜く必要がありましたが、

あえて、裂肉歯は残しました。

 かなり重度の歯周病にはなっていますが、この病状で痛みをかなり我慢できる性格なので、歯磨きを受け入れるようになってくれるのを期待して残しました。

下顎犬歯もかなり重度の歯周病ですが、すでに下顎結合部は切歯の脱落によって、触診でも緩くなっているのがわかるくらいでしたので、こちらも残してあります。

もちろん根面は、ハンド、超音波スケーラーで、309の分岐部は、レントゲンではまだ歯石の付着はありますが、その後除去して、人用のペリオ用のマイクロエンジンにつけて根面を滑沢にするバーで綺麗にしました。

遠方からの起こしのため、何日かお預かりして経過を見ることになりました。食欲も元気もありませんでしたが、2日目から大きく改善し、a/dや消サポ缶を食べるようになり、3日目には消サポドライを小さくしたものをカリカリと音を立てて食べてくれまして、私もホッと胸を撫でおろしました。

腫れが見られた場所(108-109の抜歯をした)周囲の軟部組織は、腫瘍の疑いもあるため組織を採取してあります。

まだ12歳なので、もう少し使える歯を取っておいて顎骨の維持に努力してみたいところです。

口腔衛生には、0.12%CHX溶液を処方して、毎日口腔洗浄をしてもらいます。

潰瘍が落ち着いてきたら、歯ブラシをスタートします。

この手の非常に重度な痛みを持つ口腔症例は年に何度か治療をすることがありますが、診断も治療も非常に難しいと感じます。その分、良くなって、食欲旺盛になってくれるのを見るとやりがいを感じますね。

 
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