Case #047: 超重度の歯周病の犬、(難治性)甲状腺機能低下症

May 2, 2019

先月終わり頃、大変困難な歯科症例の治療をしました。普通は治療しないと思います。

ミニダックス、未去勢、14歳例です。主訴は、歯石がひどい、鼻水たまにクリームっぽい色のものが出る、咳が連続してでるとのことでした。食欲元気はあり。

 

昨年10月に歯科治療を受けたいとのことで来院されましたが、甲状腺機能低下症(fT4: 0.8, TSH4.35)と低アルブミン血症(Alb: 2.5)があり、ひとまず甲状腺ホルモン剤の投与を始めたのですが、甲状腺が全然上がってこない。これはまずいなということで、大学病院を紹介したのですが、受信は希望されず、ホルモン剤と抗生剤の投与を続けていました。正直歯科治療は困難ですとあきらめていただきました。そうこうしているうちに、眼窩下膿瘍になり、体重減少も見られるように。

 

何度か繰り返しているうちに、状態が悪化し、血液検査をしたところ、さらに軽度の腎機能の低下(BUN: 31.2, Cre: 1.51)と貧血(RBC: 543 x 10000)も見られるようになってしまいました。両側の眼窩下膿瘍で、両頬が腫れ上がり、いかにも辛そうです。相変わらず、低Alb(2.4)、低T4(0.8)です。手術には大きな危険が伴いますが、やはり口の問題を改善してあげたい。計画としては、各アーチ(左右上下顎)ごとに麻酔をかけて治療をするというもので、最初に眼窩下膿瘍になった左から治療をすることにしました。自分の中では30分で終わりたい。長くて1時間。朝10時までに入ってもらい、ルートを確保して晶質液の点滴、ドパミンも流して手術に備えました。

 

超短時間の注射麻酔薬の投与後挿管し、口の中を観察するとこんな感じです。凄いです。

 凄いというのでは伝わりませんね。大量の歯石と大量のプラークが付着して、特に下顎は歯肉の退縮も重度です。3ウェイシリンジを使ってもプラークが除去できないぐらい粘性の高いものです。計画に沿って進めます。左を見ます。

 

 

 すぐに局所麻酔を眼窩下孔に投与しましたが、歯の方から液が漏れているのがわかりました。左上顎だけの治療をすることにしていたので、さらに奥に進めて麻酔薬が漏れてこないところでさらに注入しました。それから歯石をある程度取り、レントゲン撮影。ここまでの状態になってもこれだけの歯が残っているはなぜかわかりますか?それはアンキローシスを起こしているからです。大方抜けているくらいなのですが、抜けていてくれたほうがよほど体にもいいのですが、歯根膜が無くなり歯根膜と骨が癒着しているんですね。こういう状況で、多少動揺があったとしても、むやみに除去するわけにはいかないです。おそらく外部吸収が起きていたりして、歯の強度が低下していますから、残根になり、それが感染源となって、内歯瘻や外歯瘻が再発しかねません。また、抜歯窩も閉じることはできませんので、やはり原則に則って歯肉粘膜フラップを作成し、外科的抜歯を行います。犬歯も抜歯をしました。しかし困ったことに、歯肉の退縮が重度すぎて、犬歯の抜歯窩は寄りそうもありません。口蓋側を精査しますと、困ったことに上顎骨口蓋突起がないです。向こう側まで探っても、硬いものがないのです。

 

 口蓋の正中で切開、フラップを作成し犬歯の抜歯窩を塞ごうと思いましたが、無理です。

 

 仕方なく、犬歯の抜歯窩はそのままで、ONFとしました。苦渋の選択です。鼻腔内に食渣や水が入る可能性がありますが、これ以上深追いしてもくっつかない可能性もあるし、時間がかかりすぎてしまえば覚醒も心配です。術中、加温器にて37度を切らないように維持はできましたがこれにて治療を終了としました。

 

 

注射麻酔から吸入麻酔offまで49分。ちょっと予定よりかかり、ONFを残してしまいましたので70点くらいの出来かな。

 

覚醒はスムーズですぐに立ち上がりました。しかし呼吸は努力性です。横臥を取りたがったので、一旦切ったドパミンをもう一度再開しました。この状態では帰宅は心配なので、まずは一晩入院下で観察しました。夜中になって起き上がってこちらを見たりしてくれたので、少し水を用意したところ起き上がって飲んでくれました。生きる気力を感じ、少し安心しました。翌朝、缶詰を用意したところ食べてくれたので、退院としました。

 

翌日の電話での様子伺いでは、寝ているが元気そうで、吠えたりしているとのこと。1週後の経過観察では、食欲元気はあり。長いこと患っていた咳もなく、起きている時間が増えたとのことでした。眼窩下膿瘍は綺麗にひいいてくれていました。体温はやや低め(37.88)、心拍数(120)、呼吸数多い(90)でしたが、体重はキープできており、峠は超えてくれている様子でした。ふ〜。よかったです。

 

このワンちゃんは、計画では4回治療しようと思っていました。術前は。しかし、本当に術後は心配しました。同じ治療をして次も元気になってくれる保証はありません。少なくともある程度炎症はひいてくれると思いますので、1ヶ月ほどして血液検査でそれが確認できれば、右上顎も行うのかも。

 

こういうレポというのは、あくまで当院の足跡でしかありません。すべてのことがすべての症例に当てはめられるわけではなく。こんな風にやっているので、是非やらせてくださいというわけでもないです。冷や汗をかきながらやっています。できたらやりたくない。でもやらなければ。自然に良くなることはないのです。たまたま元気に帰れただけかもしれないし。症例をアップしていますので、読んでくださっている方はご存知かと思いますが、もっと高齢の動物も手術をしています。しかし、年齢は二の次です。あくまで全身状態がどうか。危険な状態でもその後に良くなると信じてトライする気持ちがどれだけあるのか。今になって思えば、せめて昨年のうちに手術をしていれば、もう少し状況は良かったかもしれません。でも、今回なんとかなったのは、最初から1アーチと決めて、比較的短時間で終えたからかもしれません。ONFが残っても仕方ないと、打ち切ったからかもしれません。出来るところまでやろうと思っていたら、処置は出来ても、覚醒中に亡くなったのかもしれません。本当に困難な症例でした。ワンちゃんは元気になり、飼い主さんも喜んでくださっているので結果オーライですが。。。。いやいや、ONFが残ったらオーライじゃないよ〜〜って、言いたい方もみえるでしょう。。。。そうですね。でも、臨床では往々にしてありますが、全てが治る病気や怪我ばかりでなく、苦渋の決断をせねばならないことがあるということですかね。わかっていただける方、いらっしゃると思いますが。。。

 

 

 

 

 

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