Case #021: 重度歯周病のトイプードル
2018.06.27 歯科
飼主さんはこのワンちゃんをブリーダーさんから4歳頃に引き取ったらしいです。すぐに歯石除去を受けさせたり歯磨きをちゃんとされたりと手厚いケアをされていたようですが、歯周病の進行はなかなか止められなかったようです。
オペ時に認めた欠歯は34本でした。体重や歯の大きさからすると、おそらく永久歯が生え揃った時には数本の欠歯はあったと想像できますが、それからオペまでに最低20数本抜けてしまったのだと思います。この体重の小型犬は本当に注意が必要です。
これは歯石除去をする前の状態です。かなり綺麗な状態です。ここで重要なのは、歯石の有無というのは歯周病の程度と直接関係はないということです。
初診の身体検査時におやっ!と思ったこと外顆の写真です。
下顎犬歯が外側に大きく開いています。
動物の顎を左側へ動かすと・・・。
右側へ動かすと・・・。という具合に大きく変位します。これは下顎結合が離れてしまっているかも・・・。(汗)レントゲン検査では・・・、
やっぱり離れています。歯周病によって骨吸収が起きて離れてしまった可能性と、もともと結合が非常に緩かったことも考えられます。いずれにしても、非常に骨が少ないので・・・、無いながらも抜歯時に骨折させないことが大事ですね。
左側です。奥の方にあるのは下顎第1後臼歯(309)です。レントゲンを見てみましょう。
検査でも100%根分岐部をプローブが通る状態ですので、抜歯が最良です。
上の写真の、丁度歯ぐきの部分は口唇で隠れてしまっていますが、頑張って歯を磨いていたことがうかがい知れます。水平吸収は、慢性的な歯周炎の所見ですが、垂直吸収は最低限だと思います。ただ、この相手になる上顎第4前臼歯(208)はありませんし、フードを与えてもカリカリと音を立てて食べてはいません。年齢を考えると今回抜いてしまった方が、飼主さんの負担も減りますし、動物もイヤなことをされずに済むし、近い将来再度、検査・抜歯をする為に麻酔をかけるリスクも減ります。
ということで、抜歯をすることにしたのですが、骨を削っている際に下顎管内の静脈を傷つけてしまったようで、一時大量出血が起きてしまいました。圧迫止血をし、歯頸部で歯を切断し、一旦閉創しました。
圧迫によって、ひとまず出血は止まりました。
2本歯根が残っています。
モニターで体の状態に注意しながら、ひとまず反対側の抜歯を済ませ、さらに下顎犬歯の抜歯を済ませて、気を落ち着けて再度糸を抜いて開創し、慎重に骨を最低限度に削って、
抜歯を済ませました。
歯周病罹患歯なので、なんとか抜きたかったのです。
垂直吸収は最低限度だったので、下顎骨を折ってしまう心配はありませんでしたが、やはり出血は避けたかったです。
抜歯窩には下歯槽神経が顔を出していました。
下顎犬歯の抜歯窩にはConsilを詰め、閉創。”できるだけのこと”として、行いましたが、歯が無くなってしまったので、負荷がかからず、骨の廃用萎縮は避けられません。飼主さんには、注意深く、じっくりと、指で顎を開いてもらうよう指導しました。
どこかで、プレートとスクリューで固定をすることを提案されたようですが、それはうまく行かないでしょう。一時的には安定しますが、メカニカルストレスがかからなければ必ずインプラントはゆるんできます。
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オペの2日後に経過伺いの電話をしたところ、昨日より元気がでてきていて、食欲あり。口の周りを触るとまだ嫌がるが大丈夫そう、とのことでした。顎の骨がなくなってしまうとだ液が落ちやすくなるので、少しでも顎の骨が長持ちするように頑張って負荷をかけてもらえたらと思います。