Case #023: 多発性吸収病巣のトイプードル
2018.07.14 歯科
今回は9歳、去勢済雄のトイプードル、BW4.40kgです。以前から歯石が気になっているとのことでしたが、噛み付いてくるのでとても自宅ではオーラルケアはできないという状況です。
9歳という年齢は、個人的な考えとしては、過去に一度も歯科検査を受けたことのない犬猫が、高齢になる前にしておくべき準備として、歯科検査・治療を受けるのにちょうど良い年齢です。10歳以上にやっかいな歯科治療を残すべきではないと思っています。
ただ、飼主さんは歯磨きはできないものの、あまり歯は抜いて欲しくないという意向です。
さて挿管して口の中をじっくりと見てみます。
108, 109は中等度の歯石、104, 409は軽度の歯石があります。406, 407は欠歯。
101は欠歯。下顎切歯は軽度の叢生。
208は歯石が一度自然に取れて再度付着してきている感じです。309に軽度の歯石。204遠心の歯肉が退縮し、歯石も見られます。306は欠歯。写真はピンぼけして分りづらいですが、306, 308は歯冠の形態が少し異常にみえます。
アタッチメントロスは201は(頬側:6-3-5mm, 舌側:4-3-5mm)で重度の歯周病。それ以外、ほとんど1-3mmにありました。
レントゲンを見てみます。(スクリーニングとして口腔内全ての歯をレントゲンをとっていますが、異常の見られるところのみとしています)
201は60%あまり垂直吸収によってアタッチメントロスが起きています。
406は欠歯、407はどうやら吸収病巣のようです。
分りづらいですが、306, 308も吸収病巣です。二等分面法で撮影しているので、若干エロンゲーションが起きています。
308を平行法で撮影するとより分りやすいですね。
407のところは、歯肉が盛り上がり、赤く炎症が起きているのが分かります。
以上より、201は抜歯、407, 306, 308は外科的に抜歯をします。それ以外の残る歯は歯石除去、一部をルートプレーニングを行います。
左下顎の歯肉を切開し開いてみると状況がよくわかります。
歯根が健全な状態ですので、しっかりと頬側の歯槽骨を深く切削しないとなかなか抜けません。
途中で一度チェックの為にレントゲンをとり、
抜去。
骨膜を切開し、縫合面に緊張を持たせないようにして、4-0Monocrylにて単純結紮縫合にて閉創しました。
歯頸部というより歯冠部に吸収が起きていた407も同様に切開して骨を切削し、
抜去。
同様に閉創しました。
吸収病巣は、私が見てきた感触では、露髄を起こしている部分が痛むというより、極度の炎症で盛り上がった歯肉に鋭い痛みを伴っている印象です。挿管後、歯石を取り、プロービングをする際にそこを触るとガクガクと反射的に下顎が動くチャタリングという所見が見られることが多いからです。
パッと見て分るものもあれば、このようにまじまじと口内を見せてもらえない犬や、舌側に吸収病巣がある場合は、麻酔下でなければまず分りません。
全身麻酔下での検査・治療は、とても大切ですね。