Case #024: CUPS 犬の慢性潰瘍性歯周口内炎 |日野どうぶつ病院|1

blog

Case #024: CUPS 犬の慢性潰瘍性歯周口内炎

今回の症例は、慢性潰瘍性歯周口内炎のワンちゃんです。ジャックラッセルテリア、12歳、メス。

主訴は、口臭がひどくなってきたということと、できものがあるとのことでした。

初診時の身体検査では、重度の口臭、非常に重度のプラークと、104の遠心に大豆大の黒っぽい腫瘤がありました。血液検査では、軽度の低アルブミン(Alb:2.5)と軽度の高Cre(1.7)を認めました。

麻酔下での口の状態です。

 通常スリーウェイシリンジで掃除をすれば、ほとんどのプラークは取り除くことができますが、この子のプラークは非常にねちっこく、取り除けません。

口腔後部、上顎犬歯と第3切歯に接する頬側面の口腔粘膜には、自然出血を起こす重度の潰瘍が見られます。これは相当な痛みを持っていることでしょう。初診時に見られた黒い腫瘤はなく、その一部のようなものがあったので、こちらは病理サンプルとして採取しました。

歯石を綺麗に取り除き、ポケットを測定しましたが、深いところが一部の切歯と犬歯に3mmの所があっただけでした。307と406に吸収病巣がありました。今後定期的な口腔清掃が必要だと思われるので、抜歯はせず、状況説明だけとしました。

 研磨を行って、アルサルミンを塗って、歯肉にはペリオフィールの塗布をして終了。(ちなみにアルサルミンに口内炎に効くというはエビデンスはありません。)

CUPSは非常に強い痛みを伴い、それによって口を使いたがらなくなることも自浄作用が働きにくいと考えられる為、痛み止めの内服を処方。

炎症をさらに抑える為に、必須脂肪酸のサプリメント。

乳酸菌のサプリで、免疫調整と強化も行います。

今日が最も口が綺麗な状態なので、大変ですが良さそうなことを一度にスタートします。

今まで見てきたCUPSの中では比較的軽い方なので、なんとか治癒を目指していきたいです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

術後7日目です。

今日までに1-2日置きに来院してもらっています。術後ずっと食欲元気があり、口臭は気にならないとのこと。1日だけ、夜うぅうぅ言って寝られなかったようです。

術後2日目はペリオフィールの塗布のみ。4日目から0.12%クロルヘキシジン溶液をつけた毛先が柔らかいタフトブラシで歯磨きをし、歯にペリオフィールの塗布を行っています。

病院では歯磨きを許容してくれ、頬側だけでなく、上下犬歯の舌側も磨かせてくれています。

上顎犬歯に接する口腔粘膜の潰瘍は、かなり浅くなってきている印象です。

今のところ順調にみえます。左側はかなり良い感じですよね。

長期維持するためには、自宅では歯磨きができませんので、最低週に2−3回通院してもらい、歯磨きと軟膏の塗布を継続してゆくしかないでしょう。

困った時に色々相談させていただいている、下野先生による著書から

プラークの機械的清掃により 歯肉炎の改善が示されています。3日を過ぎると歯肉炎指数が上がってきます。ですので、週に2−3回歯磨きに来てもらうことが必要なのです。

機械的清掃がないと、どのような菌が、どれくらいの日数で増えてくるのかわかりますか?3段になっていますが、一番上の螺旋状菌とスピロヘータというのが最も悪影響を及ぼす菌といわれています。わずか7日間で出現します。これは人の報告をもとにしていますが、犬でも同様に考えていいでしょう。また、犬では人よりも口腔pHがよりアルカリ性に傾いており、歯石が付きやすいといわれています。歯石そのものは悪さをしませんが、表面がザラザラしていることから、プラークがより付着しやすいため、日々の機械的清掃は欠かせません。

もう一つ文献をご紹介します。

 日本に何度も来られている米国獣医歯科専門医のDr. Niemiecの著書の訳本です。

非常に多くの口腔内傷病を網羅していて、綺麗な写真もたくさん掲載されています。

 CUPS:慢性潰瘍性歯周口内炎の部分

  CUPSは、キーポイントに書かれていますが、ケアができない場合は、猫と同様、全顎抜歯しか残す手がありませんので、 頑張って通院していただきたいです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後の経過:(H30/08/17追記)

術後2週間ほど、週3回来院していただき、歯磨きを実施し、ペリオフィールの塗布を行いました。特に上顎第3切歯、犬歯、上顎第4前臼歯を念入りに。

当初、自宅でのオーラルケアはできませんでしたが、お庭に連れ出せばできるということが分かり、毎日の歯ブラシでのデンタルケア、ペリオフィールの塗布ができているようです。

お盆あけの経過観察が楽しみです。

 

TOP