Case #084: 上顎第4前臼歯の複雑破折の5歳例の柴犬
2020.10.10 歯科
Facebookを通して知り合った獣医さんからのご紹介で、長野県からお越しになりました。当日までに、ラインや電話で写真や文章のやりとりを相互に入念に行ったうえで、来院となりました。
犬に破折が起きているということを飼い主さんがお家で知ることは非常にレアなことで、今回はたまたまあくびをした時に見つけられたとのことでした。柴犬は、若干神経質なところがあるので、診察室で確認しようと思いましたが、無理でしたね〜〜〜。破折、特に露髄を強く疑う場合は、痛みを伴いますからなおのことです。
では、麻酔下での状態を見てみましょう。治療前にリドカインにて、眼窩下孔ブロックを行っています。
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左上顎第4前臼歯(208)です。 ぽっこり、赤いものが見えていますね。これは相当痛いと思います。他にも右上顎第4前臼歯(108)など数カ所に破折がみられました。硬いものを噛んでいるワンチャンでよくみられることです。歯石除去、研磨ののち、全顎の歯肉溝深さを測定し、口腔内レントゲンも全顎で行い、口腔全てをスクリーニングします。
レントゲンを見てみます。
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208と108両方とも折れていますが、片方が露髄ありで片方はなしの状況で、根管の幅や根尖周囲に骨透過性の亢進があるとしたら、幾らかでも差があると思われます。また、周りの歯の根管も比較検討します。さらに、患歯そのものと、対合歯である下顎第1後臼歯に歯周病がないかも要チェックです。場合によっては、わざわざ大変な治療である根管治療をせず、抜歯の方がメリットが大きい場合があります。
右上顎第2後臼歯の重度の歯周病以外、罹患している歯はなかったので、当初の予定通り、208の根管治療を開始しました。
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NiTiファイルをつけたエンジンと、
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NiTi手用ファイルも用います。
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シーラーはバイオセラミックスであるWell Pulp ST(ペントロンジャパン)を使います。
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ガッタパーチャはシングルポイント法にて。
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グラスアイオノマーで蓋をして、コンポジットレジンにて修復して終了です。
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108はレジンで修復のみ行いました。
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レントゲンはこんな感じです。
遠方からの来院で大変だったことと思いますが、手術日に帰宅して、もう食事を食べてくれたとお知らせをいただき、私もほっとしました。破折歯が何本かありますし、ちょっと大変ですが数ヶ月ごとに来院していただき、麻酔下でレントゲンにて術後2年まで経過を観察させていただきます。
通院も大変ですが、経過観察に麻酔が必要であることに、飼い主さんは根管治療を受けるかどうか迷われました。患歯が裂肉歯ということで、私としては保存(根管治療)をおすすめしました。家族でよく話し合われて、今回の治療となりました。
大変にお疲れ様でした。