Case #007 犬 撓尺骨 両側 骨折 |日野どうぶつ病院|1

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Case #007 犬 撓尺骨 両側 骨折

Case #007は、両側が折れてしまったトイプードルです。写真は骨折当日(3/29木)痛々しいですが、固定をしてあげたら痛みが和らいだようで表情は落ち着いていますね。過去に4例くらい、左右両側骨折のオペをした事があります。麻酔が安定していれば、両側を一時にオペをしてあげたいです。

このトイプードルくんは3.30kgぐらいなので、骨が細く、また、プレートをおく所が扁平ではなく丸っとしているので、プレートと骨を鉗子ではさんで固定して下穴をドリルで開けるという事がしづらいのが難点です。

ですが、最近私も要領を得てきたので、このトイプードルくんの手術は注射麻酔をして眠らせてから、毛を刈ったり消毒したりの準備から右側のオペ、左側のオペを終えるまでに2時間40分、片足実質1時間10分ぐらいずつかな、という感じで、早くなってきました。麻酔時間が短い事は患者さんの負担が少ない、飼主さんの経済的な負担も減るなどメリットばかりです。

動物はえらいもんですね。昨日オペをしたのですが、もう立てるのです。(3/31土)

片足骨折だったらまだ挙げていると思いますが、過去、夜オペをして深夜にチェックにきたら、オペをした足も使ってたっていた子もいます。もちろんケースバイケースですが、この子は寝ているのがいやで起きていたいという強い意志を感じます。食欲も十分にありますので、治りは早いでしょう。

Case #006は、3/27(火)の夕方に紹介病院から電話があり、終わりごろに来院し、そのまま夜オペに。3/28-29は、所用でお休みをいただいたんですが、case#007の(別の)紹介病院さんから3/29(木)にお電話をいただいたのち、来院して頂いてそのまま入院。あけて本日3/30(金)、幸い予約オペがなかったので、お昼のうちにオペを実施する事ができました。たまたまスケジュールが混み合っていましたが、立て続けに骨折が2件きましたが、無難に手術を終える事ができました。感謝です。落下による骨折の場合は、できるだけ待機日数が短くなるよう努力しています。

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経過その1:(4/9現在)

このトイプーくん、本当に術後からとても良く動いて、両前足を使ってくれていました。ちょっと使いすぎてるかな、何かした方が良いかな・・・と思っていたところ。起きてしまいました。術後4日目の朝プレートの破損を認めました。

 正直こういうケースをのせるのは躊躇しますが・・・。でも、こういう事もあるという事を読んで下さっている方に知って頂くのも大切な事と思いまして・・・。

このプレートは動物用に正規に日本で購入したもので、1.5mmスクリュー用で、厚さ1.1mmのプレートを6穴でカットして使用しています。もちろん新品です。このプレートは、3-4年前だったかに新発売されたもので、それまでこのクラスの体重の犬には、厚さ0.9mmのプレートを使用してました。

術後は、左足の使用をややためらうところがあり、右側により負荷がかかっていたとは思いますが、術後翌日の写真の通り左右を使っている状態でした。

過去、このようなプレートやインプラントの破損は、私の記憶では(a)1例が術後1週でプレートの破損、(b)1例が術後3週でプレートの破損、(c)1例が術後4週でスクリューの破損、です。詳細はここでは述べませんが、このトイプーくんは術後4日でプレートの破損という事で非常に驚きです。

プレートの強度を高めるしかありませんが、今回のプレートが極端に強度が低いとは思えません。いろいろ考えまして、今回は0.9mmプレートを2枚重ねる事にしました。

 なんとなく、このトイプーくんは将来再骨折も心配もしてしまいます。

同じプレートをあて、いわゆるギブスをして、運動制限をするのも1つの選択肢だとは思いますが、厚めのプレートを残す事は避けたいと思います。

骨融合を認めたあと、(スクリューは全て取り除き)プレートを残すということで骨融合と融合後の骨粗鬆症の予防の2つを実現したいと思いました。

そういうわけで、0.9mmの厚さのプレートを中程4本の部分だけに重ねて、強度を高める事にしました。

右足の2回目のオペを終えて1週間が無事に過ぎました。一応手先を出す状態で、ギブズもして、入院ケージの扉の上3/4を段ボールで被って、割と低い姿勢をとるよう仕向けています。このまま無事に治ってもらいたいです。

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経過その2:(4/10現在)

このトイプードルくん、完全に私の予想を上回っています。

4/10に右前の再オペの1週後の経過のレントゲンを撮りましたら、なんと、プレートが浮いてきているではありませんか・・・。浮いてきているというか、骨が離れてきているというか・・・。

ただ足はめちゃくちゃ使っているので、おそらくその効果で贅性仮骨が見られており、治癒に向かう反応としては悪くないと思われました。 

 ひとまずオペの準備はしていなかったので、ギブスの交換のみ実施しました。足先が出るギブスでしたので、足先が出ないギブスに、軽い麻酔下で交換をしました。

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経過その3:(4/12現在)

一体どういう事なのか考えてみまして、1)運動のしすぎで衝撃が多過ぎて、徐々にスクリューがゆるんできているのではないか。骨にはスクリューが食い込んでいる状態。2)刺激のせいで骨が破損しスクリューがすっぽり抜けている状態。スクリューはズブズブの状態でまわしても骨と噛み合ないので、何ら固定ができていない状態。のいずれかではないかと思われました。

レントゲンを撮りましたが4/10と状態に変化はありませんでした。このまま様子をみると、抜けてきたスクリューが螺子山を破壊し固定力の更なる低下やインプラントの破損の恐れがあるので、度々のオペですが、はやり状態のチェックをかねて、原因が1であればスクリューの締結を実施するために麻酔をかけました。

 状況は、スクリューを締めてゆくとしっかりと締結できる状態でしたので、動きが多すぎる事による過剰な振動によってスクリューが徐々にゆるんできていたのだろうと思われます。橈骨内側にしろい影が帯状に見えます。

足先まで被うギブスをつけ、床材のクッション性を高め、後ろ足だけで起立しないように入院室を工夫しました。これで、トラブルなく骨融合してもらいたいです。

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経過観察その5

クッション性を高めてみたところ、驚くほどおとなしくなりました。こんな経験は初めてです。それでも時に激しく動くので、飼主さんの了解を得てお薬で少しおとなしくしてもらうことにしました。病院が終わって残務処理をしている時、以前は気配に気がついてよく騒いでいましたが、投与をはじめてから静かになりました。

GW前に、一時退院としました。心配はありましたが、経過が順調そうだということと、飼主さんが寂しいとのこと・・・。

そして、連休中に一度レントゲンを撮らせて頂きました。(5/2)

自宅では飼主さんと一緒にいるととてもおとなしいとのことでした・・・。

早く返すべきだったか・・・。オペ直後は飼主さんも自宅で管理ができるか不安だったので、なかなかお返ししましょうということにならなかった・・・。ん〜〜〜〜

正面像では、あたかも骨が曲がったように見えますが、これは内側に骨が添加されている状態です。内固定でここまで仮骨が増えるのを見るのは、わたしは初めての経験です。

ラテラル像では、Rが2枚重ねになっていますが、少し浮いている感じがあります。(4/12以降にも一度撮影しており、その日と比べて)変化は見られません。 

いずれの像でも、骨折ラインに向かって仮骨が増えていますので、反応としては良いです。逆に、骨が減っている、痩せている、先細くなっている状態は非常に危険です。

再手術をしたりでまだ十分に時間は立っていませんが、こういう反応が見られれば後は日にち薬と考えてよいでしょう。ようやく枕を高くして眠れます。

まだ治療は終わっていませんが、この症例では非常に多くのことを学ばせて頂きました。

あまりに活発すぎる患者の場合は要注意。

1)おとなしくさせる対処を工夫する。

2)ロッキングプレートの導入も要検討。スクリューのゆるみはおきにくいと考えられるため。

3)両側骨折の場合は、少し強度の高い固定をする。

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さて、約1ヶ月前(5/31)のレントゲンで、かなり骨融合がすすんでいる印象を受けました。

 正面から見る橈骨内側に湾曲したように見えますが、贅性仮骨ととらえています。

尺骨の骨折部位も同様です。

それから約1ヶ月経って今日のレントゲンが以下。(6/29)

 左側橈骨内側の贅性仮骨と思われた部分は、かなりおさまって見えます。尺骨もほっそりしてきています。

予定通り、プレートを残し、スクリューを全て除去することにしました。右側は2枚のプレートを重ねていますが、上の1枚を取り除きます。

 右側は、湾曲がやや強めなので、プレートが一部浮いていますが、幾らかでも接しているので、こちらもこのままです。

このプレートだけを残すというのは、教科書には無い方法です。いままで何度かあった、プレートを全て取り除いたあとの再骨折を防ぎたいということが1つの目的です。このワンちゃんは非常に活発で、通常考えられない時期のプレートの破損が起きたりしたので、再骨折がおこる気がして仕方ないのです。再骨折させない為には骨に強度を与えるしか無いですが、プレートとスクリュー全てを残すと、時に骨が廃用萎縮を起こしてしまい、プレート直下から骨がなくなってゆく(レントゲンで見ると黒っぽくなる)ことがあります。もしかしたら、両端のスクリューを残すのが良いのかもしれません。ただ、その場合は、橈骨の前面に残すよりダブルプレートとして側面にもつけておき、内側面のプレートとスクリューを残す方が報告としては多いかもしれません。しかし、このサイズの犬でダブルプレートで治療するのは、かなりテクニカルだと思いますし、そのぶんオペ時間も長くなり、使用するインプラントが増えるため費用も高くなります。

骨融合が認められたあとで、通常スクリューを外す手術を行っています。その際、プレートと骨がくっついてなかなか剥がれないことがよくあるので、幾らかの強度を骨に与えてくれると想像しています。でも本当にこれでうまく行くのかは分りません。

プレートを残してスクリューを全て外すというのはことは本当に苦渋の選択だと思っています。

他には、両端のスクリューも残すということももう1つの選択でしょうし、場合によっては全て残し、問題が起きたら対処するのもありかもしれません。

深夜、サッカーワールドカップの日本対ポーランドの試合で、残り10分ほどを時間稼ぎの為に球回しだけをしていました。賛否両論ありますが、私はありだなと思いました。でも、そう思わない人もいるわけです。

動物医療の分野でもやはり賛否両論あり、結論がなかなかでないことがあるのです。こういうことの選択をあまりに飼主さんにゆだねてしまってもどうにもならないことですが、全て飼主さんにお話しし、了承して頂いた上で治療を行っています。

もう、じっとしてられないんですよね・・・

笑ってるように見えます。

最初の1ヶ月ぐらいはどうなるのか不安でしたが、ひとまず両前足をしっかり使って生活できるようになり目標は達成できました。ほぼ3ヶ月なので、結局いつもと同じぐらいの治療期間でした。ふ〜

 

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